大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ヲ)20038号 決定 1997年7月10日

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立ての趣旨は、基本事件において、申立人を別紙物件目録記載(2)、(4)の土地、建物(以下「本件土地」、「本件建物」という)の買受人とした売却許可決定の取り消しを求めるというものである。

二  そして、その理由の要旨は次のとおりある。

申立人は、基本事件において、本件土地、建物の買い受けを申し出、平成九年四月二八日、売却許可決定を受けて買受人になったものである。基本事件の物件明細書等には本件土地上には本件建物しか存在しないと記載されている。申立人は、右記載どおりの物件と思って買い受けたところ、本件土地上には件外建物が侵入しており、件外建物をこのままにしておくと、間口が約二メートルも狭くなり、面積も約一〇坪も少なくなるので、売却許可決定の取り消しを求めるというものである。

三  一件記録によれば次の(一)、(二)の事実が一応認められる。

(一)  平成二年二月二七日付け現況調査報告書、不動産評価書(三通)には、本件土地上に幅約一〇メートルの本件建物が存在し、本件建物の東側約二メートルは空地が存在し、結論として本件土地上には本件建物しか存在しない記載となっている。しかし、いずれの不動産評価書にも本件土地の間口は約一二メートルと記載されていること、しかるに、現況調査報告書の写真<57>、<58>によれば本件建物の東側に接着して件外建物が建てられている様子がわかること(なお、当裁判所の調査によると、件外建物の所有者は、本件土地の所有者と親族関係にあり、本件建物の所有会社の取締役である「丙川松子」と推認できる)、すなわち、右写真を見ると、本件土地のうち空地とされている部分に件外建物が侵入していることがわかることが一応認められる。

(二)  本件土地の最低競売価格を決定する基礎となった平成八年七月二四日付け不動産評価書(再評価)によれば、本件土地の評価に当たっては、更地価額から、敷地利用権として三割、競売市場修正として更に三割をそれぞれ減価している。競売市場修正をするのは、競売不動産の市場は一般の不動産市場と異なり、売主の協力が得られないのが常態であること、事前に物件に立ち入ることができないこと、保証金が必要な上、代金も即納しなければならないこと等を考慮してのことである。なお、本件土地上に侵入している件外建物部分は別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地であり、別紙図面からもわかるとおり本件土地に占める件外建物の侵入部分は僅かである。

四  以上の認定事実をもとに検討する。

(一)  売却許可決定を取り消すためには「買受人の責に帰することのできない事由」により不動産が損傷しなければならない(民事執行法七五条)。ところで、前記三(一)の認定事実を前提にすると、現況調査報告書、不動産評価書を見た上で、本件土地、建物の所在する場所に赴いて見分すれば、本件件外建物の一部が本件土地上に侵入していることが容易に判明したことが推認できる。そうだとすると、現場確認をすることなく、物件明細書、現況調査報告書、不動産評価書の記載だけで、本件土地上には本件建物しかないと信じた買受人に、「責に帰すべき事由」がなかったとは言い難いというべきである。

(二)  また、売却許可決定を取り消すためには本件土地に著しい損傷がなければならない(民事執行法七五条)。ところで、前記三(一)、(二)で認定したとおり、<1> 本件土地内に侵入している件外建物の本件土地に占める割合は僅かであること、<2> 件外建物の所有者と本件土地、建物の所有者との身分関係を勘案すると、断定は避けねばならないが、件外建物の所有者はその占有権原を買受人に対抗できない蓋然性が強く、結局は買受人は本件土地全体を使用することができる可能性が強いこと、<3> 本件土地には競売市場修正として三割の減価がされており、本件のような件外建物の僅かな部分の本件土地内への侵入は右競売市場修正の減価の中に含まれていると考えるのが相当であることなどを考慮すると、買受人の主張する本件損傷をもって著しい損傷ということはできない。

五  以上の次第で、本件申立ては理由がないので却下することとし、申立費用の負担について民事執行法二〇条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 難波孝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例